新任教員過労自殺事件行政訴訟(控訴審)
    2017年2月23日東京高裁勝訴判決
 東芝社員の解雇無効確認等請求訴訟(差戻審)
    2016年8月31日東京高裁勝訴判決
 海外勤務者の労災保険行政訴訟(控訴審)
    2016年4月27日東京高裁逆転勝訴判決
 新任教員過労自殺事件行政訴訟
    2016年2月29日東京地裁勝訴判決
 東芝社員の解雇無効確認等請求訴訟(上告審)
    2014年3月24日最高裁破棄差戻判決
 会計システム担当社員の過労死行政訴訟
    2013年2月28日東京地裁勝訴判決
 システムエンジニア労災死亡(精神疾患)事件損害賠償請求訴訟(控訴審)
    2012年3月22日東京高裁勝訴判決
 派遣労働者過労自殺事件損害賠償請求訴訟(上告審)
    2011年9月30日最高裁勝訴決定
 システムエンジニア労災死亡(精神疾患)事件の行政訴訟
    2011年3月25日東京地裁勝訴判決
 システムエンジニア労災死亡(精神疾患)事件損害賠償請求訴訟
    2011年3月7日東京地裁勝訴判決
 東芝社員の解雇無効確認等請求訴訟(控訴審)
    2011年2月23日東京高裁勝訴判決
 派遣労働者過労自殺事件損害賠償請求訴訟(控訴審)
    2009年7月28日勝訴判決
 部下ハラスメント自殺の行政訴訟
    2009年5月20日勝訴判決
 東芝社員労災(うつ病)事件の行政訴訟
    2009年5月18日勝訴判決
 26年前の殺人事件損害賠償請求訴訟(上告審)
    2009年4月28日勝訴判決
 東芝社員の解雇無効確認等請求訴訟
    2008年4月22日勝訴判決
 派遣労働者労災死亡事件の損害償請求訴訟
    2008年2月13日勝訴判決
 26年前の殺人事件損害賠償請求訴訟(控訴審)
    2008年1月31日勝訴判決
 職場のハラスメントによる自殺行政訴訟
    2007年10月15日勝訴判決
 海外出張中の過労自殺行政訴訟
    2007年5月24日勝訴判決
 小児科医師自殺事件行政訴訟
    2007年3月14日勝訴判決
 アスベスト悪性中皮腫損害賠償請求訴訟
    2006年12月14日勝訴判決 
 製薬会社社員自殺事件行政訴訟
    2006年11月29日勝訴判決
 新入社員過労自殺行政訴訟
    2006年11月27日勝訴判決
 派遣労働者過労自殺事件損害賠償請求訴訟
    2005年3月31日勝訴判決
 医師過労自殺事件の遺族補償給付不支給処分取消請求事件
    2005年2月22日勝訴判決
 担当著名事件判例掲載誌
 担当事件を紹介した掲載本
新任教員過労自殺事件行政訴訟(控訴審) 2017年2月23日 一審原告勝訴判決
〓 新任教員過労自殺事件 公務外認定処分取消請求控訴事件  〓
裁判所 東京高裁第14民事部
被災者 Gさん 女性 (当時25歳)
一審原告Gさんの両親
一審原告ら代理人弁護士 川人博、 弁護士 平本紋子、 弁護士 山下敏雅、 弁護士 鈴木朋絵
一審被告地方公務員災害補償基金
事件の概要一審原告らの子である被災者は、都内の市立小学校に新任教員として配属され教育指導等の公務にあたっていたが、うつ病を発病し、平成18年12月に亡くなった。一審の東京地裁は、平成28年2月29日、被災者の死亡を公務上災害と認め、公務外認定処分の取消しを言い渡す判決を下したが、一審被告が控訴した。
判決概要一審判決と同様に、新任教員にとって、一連のトラブル等が強い心理的負荷となったことを認めた。
本判決の意義 本判決は、おおむね一審判決の判断を維持した上で、新任教員である被災者が受けた負荷については、さらに踏み込んだ認定・評価をしている点で、評価できる。
本件は、80時間を超える長時間労働が明確に立証できる事案ではなかったが、裁判所は一連の出来事を総合評価し、さらに一連の出来事によって精神的・肉体的負荷を受けていた被災者に対して学校等の十分な支援がなかったこと(むしろ負荷を強めるような発言もあったこと)も明確に認定した上で、出来事が全体としては強い精神的・肉体的負荷を与える事象であったと判断したともいえる。


東芝社員の解雇無効確認等請求訴訟(差戻審) 2016年8月31日 一審原告勝訴判決
〓 東芝社員うつ病事件の解雇無効確認等請求差戻事件  〓
裁判所東京高等裁判所第9民事部
一審原告重光由美さん 女性
一審原告代理人弁護士 川人博、 弁護士 山下敏雅 外2名
一審被告大手電気メーカー(東芝)
事件の経過一審被告(東芝)に勤務する一審原告は、過重な業務等が原因でうつ病に罹患し、休業を余儀なくされた。一審原告が業務上の疾病に罹患しているにもかかわらず、東芝が休職期間満了を理由に解雇通告を行ったので、一審原告は提訴した。平成20年の一審は、原告側の主張をおおむね認定した。平成23年の控訴審判決は、一審同様に解雇無効を認めたが、過失相殺などによる減額がなされた。一審原告はこれを不服として上告受理を申し立て、その一部が受理された。平成26年の最高裁は、本件における過失相殺・素因減額を否定し、加えて、休業補償給付の控除について法令の解釈適用を誤った違法があるとし、更に審理を尽くさせるため原審に差し戻した。
判決概要改めて企業の責任を認定した。そして、労災保険の休業補償給付を休業損害に充当する方法について、本件では、約5年ないし約1年が経過してから支給決定がされている休業補償給付は、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞したというべきであるから、これらの休業補償給付に対応する休業損害が発生する本来の賃金の支払期日に遡って同損害が補填されたものとして損益相殺的な調整をすることはできないものというべきであるとた。
本判決の意義 本判決によって、被告会社の責任が改めて認定された。会社は、その責任を認め、誠実に対応しなければならない。また、労災保険金の損害賠償額への充当方法について、一審原告側の主張の一部が認められた点は評価すべきである。
本判決は、労働者のいのちと健康が破壊されている状況がある中で、企業の責任を明確にし、健康的な職場をつくるうえで、重要な意義を有する。


海外勤務者の労災保険行政訴訟(控訴審) 2016年4月27日 一審原告逆転勝訴判決
〓 海外勤務者過労死事件 労災保険の対象者と認める 〓
裁判所 東京高裁第12民事部
被災者 Hさん 男性 (当時45歳)
控訴人(一審原告)Hさんの妻
控訴人代理人弁護士 川人博、 弁護士 岩田整、 弁護士 加藤佑子
被控訴人(一審被告)
事件の概要被災者は,平成18年頃から中国上海市で運送業務に従事していたが,平成22年7月,急性心筋梗塞を発症し,死亡した。時間外労働は発症前1か月約100時間であった。会社は、被災者について,国内の事業所に所属する「海外出張者」であると判断し,上海勤務の全期間,労災保険料を納付し続けていた。
被災者の妻である一審原告が,中央労働基準監督署長に対し,労働者災害補償保険の遺族補償給付及び葬祭料を請求したところ,同労基署長は,被災者は「海外派遣者」であり、被災者の死亡につき、出張業務中に被った災害とは認めらない,また、「海外派遣者」として特別加入していなかったので労災保険法第36条に基づく補償対象にも当たらないとして,不支給決定処分とした。
本件は,一審原告が,中央労働基準監督署長の行った遺族補償給付等の不支給決定処分の取り消しを請求した事案である。
判決概要労災保険法の施行地内(国内)で行われる事業に使用される海外出張者か、それとも同法施行地外(海外)で行われる事業に使用される海外派遣者であって、国内事業場の労働者とみなされるためには同法36条に基づく特別加入手続が必要である者かについては、単に労働の提供の場が海外にあるだけで、国内の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのか、それとも、海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのかという観点から、当該労働者の国外での勤務実態を踏まえ、どのような労働関係にあるかによって総合的に判断されるべきものである。本件被災者は、海外派遣者ではないというべきであるから、海外派遣者を対象とする特別加入手続がされていないことを理由に、労災保険法上の保険給付の対象から除外することは相当ではないと判示した。
本判決の意義 本判決は、グローバル経済の下で海外で働く日本人が増加し、とくに中国などアジアへの出張者が増える中で、日本の労災保険の対象範囲を明確にしたもので、大きな意義を有する。


新任教員過労自殺事件行政訴訟 2016年2月29日 原告勝訴判決
〓 新任教員過労自殺事件 公務上災害と認定  〓
裁判所 東京地裁民事36部
被災者 Gさん 女性 (当時25歳)
原告Gさんの両親
原告ら代理人弁護士 川人博、 弁護士 平本紋子、 弁護士 山下敏雅、 弁護士 鈴木朋絵
被告地方公務員災害補償基金
事件の概要原告らの子である被災者は、平成18年4月、都内の市立小学校に新任教員として配属され、学級担任として教育指導等の公務にあたっていた。被災者の担任学級では、4月から6月頃までの非常に早い時期に悪質なトラブルが立て続けに発生した。初めての担任で慣れない学級指導に加え、校内及び校外での初任者研修の課題の負担やプレッシャーもある中で、学級内での様々なトラブルや保護者からのクレームが重なった。被災者は、その対応に苦慮する中で、自宅での持ち帰り残業が増加するなど時間外勤務も増え、研究指定校としての準備業務も加わったことが強い肉体的・精神的負荷となり、平成18年6月頃にはうつ病を発病し、心療内科を受診するに至った。その後、就労困難な状態となったことから、夏季休暇及び病気休暇を取得し、同年9月にいったんは職場復帰したものの、復帰後も学級内でのトラブルが続き、さらなる精神的負荷を受けて症状が悪化したため、同年10月に再び病気休暇を取得したが自殺を図り、同年12月16日に25歳という若さで死亡した。
平成20年2月、原告らは公務災害申請を行ったが公務外の災害と認定され、審査請求・再審査請求も棄却となったため、平成25年12月13日、地方公務員災害補償基金を被告とし、公務外認定処分の取消しを求める訴訟を東京地裁に提起した。
判決概要被災者のうつ病発症前に発生した業務上の出来事については、それぞれの出来事を個別に評価すると、強度の精神的・肉体的負荷を与える事象に当たると直ちには認められないが、それに相当することを疑わせるものも含まれており、これらの出来事は、被災者の勤務開始直後である平成18年4月から同年6月頃という短期間のうちに、連続して発生したものであり、かつ、それぞれの出来事は、初めて学級担任を受け持った新任教諭にとって、少なくとも相当程度の精神的又は肉体的負荷を与えるものであったと認められる。そして、これらの出来事により精神的・肉体的負荷を受けていた被災者に対し、学校等において十分な支援が行われておらず、かえって、その負荷を倍加させかねない発言もあったことを考慮すると、これらの出来事は、全体として業務による強い精神的・肉体的負荷を与える事象であったと認めるのが相当である。
本判決の意義 本判決は、教員の健康破壊が深刻で、多くの教員が休職している学校現場の現状に照らしても、その改善を実現していく上で重要な意義を持つ。
過労死防止法が2014年に成立・施行され、2015年には、過労死防止大綱が閣議決定されたが、その中にも教員を含めた公務員の健康を確保し、過労死・過労疾病を予防することの重要性が指摘されており、今後、関係者の一層の努力を期待する。
教員の健康なくしてよい教育、健全な学校現場は実現しないのであり、本件の関係者はもとより、国民全体が教員の死という痛苦な事件を受けとめ、再発防止に取り組むことを期待する次第である。


東芝社員の解雇無効確認等請求訴訟(上告審) 2014年3月24日 原告勝訴判決
〓 東芝社員うつ病事件の解雇無効確認等請求上告事件  〓
裁判所最高裁判所第二小法廷
一審原告重光由美さん 女性
一審原告代理人弁護士 川人博、 弁護士 山下敏雅 外2名
一審被告大手電気メーカー(東芝)
事件の概要一審被告(東芝)に勤務する一審原告は、過重な業務が原因でうつ病に罹患し、休業を余儀なくされた。一審原告が業務上の疾病に罹患しているにもかかわらず、東芝が休職期間満了を理由に解雇通告を行ったので、一審原告は提訴した。控訴審判決は、一審同様に解雇無効を認めたが、過失相殺・損益相殺などによる減額がなされたため、一審原告はこれを不服として上告した。
判決概要一審原告の業務の負担は相当過重なものであったといえる。使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ、本件のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなどの労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。本件の諸事情に鑑みれば、賠償額を定めるに当たっては、過失相殺をすることはできないというべきである。これに加え、休業補償給付の控除について法令の解釈適用を誤った違法があるため、これらの点は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、この部分について原審に差し戻すのが相当である。
本判決の意義 本判決は、安易に過失相殺・素因減額を適用した原判決の誤りを正したもので、働く者のいのちと健康を守り、療養中の労働者の権利を守り発展させるうえで、極めて重要な意義を有する。14年前の電通事件最高裁判決(2000年3月24日)でも東京高裁の過失相殺の誤りを正したが、本判決は、同電通事件判決の精神と論理を受けついだものと言える。近時、下級審の中で安易な過失相殺を行う判決が生まれているが、本判決は、この傾向に歯止めをかけるものとなる。
本判決は、損益相殺論でも原判決の誤りを直し、一審原告の正当な権利を守る内容である。
本判決全体を通じて、会社が原告に過重労働を課したことを最も重視し、この観点から損害賠償論を述べており、このことは被害者の救済とともに、職場での労災予防のためにも重要な意義を有する。
会社は、本判決を受けとめ、同判決にそって、一審原告の健康と被害回復のため必要なすべての義務を履行しなければならない。
判例掲載誌 労働判例1094号22頁、判例時報2297号107頁


会計システム担当社員の過労死行政訴訟 2013年2月28日勝訴判決
〓 会計システム担当社員の過労死事件 労災と認定 〓
裁判所東京地裁民事第36部
被災者 岩田一徳さん 男性(当時35歳)
原告岩田一徳さんの両親
原告ら代理人弁護士 川人博、弁護士 平本紋子、弁護士 加藤佑子
被告国(処分庁 常総労働基準監督署長)
事件の概要岩田一徳さんは,長時間労働を伴う会計システムのプロジェクト業務に従事し,業務上の精神的・肉体的ストレスを受け,脳出血により平成21年6月19日に死亡した。岩田一徳さんの両親は,労災申請をしたが,常総労働基準監督署長が不支給処分としたため,これを不服として、その取消しを求めて本件を提起した。
判示内容本件では,
・月45時間以上の時間外労働が続いたことを重視
・被災者の業務が精神的緊張を伴うものであったことを考慮
・発症直前に長距離の夜間運転をしたことが,肉体的精神的負担になったことを考慮
・深夜勤務が生活リズムの悪化をもたらすことを指摘し,
これらを総合して,業務の過重性を認定した。
本判決の意義 脳・心臓疾患につき,厚労省は月平均約80時間以上の時間外労働があることを労災認定の要件としているが,本判決は,80時間という数字にこだわらず,業務の過重性を認定しており,この点で重要な意義を有する。
本件に限らず,働く者の過重な労働が続く状況の下で,本判決を教訓に各企業,厚労省が改善のために努力することを期待する。
判例掲載誌 判例タイムズ1394号167頁
判例時報2186号103頁
労働判例1074号34頁


システムエンジニア労災死亡(精神疾患)事件 損害賠償請求訴訟(控訴審) 2012年3月22日勝訴判決
〓 システムエンジニア労災死亡(精神疾患)事件 控訴審も会社の賠償責任を認定 〓
裁判所東京高裁第21民事部
被災者 Fさん 男性(当時25歳)
一審原告Fさんの両親
一審原告ら代理人弁護士 川人博、弁護士 須田洋平
一審被告IT通信会社
事件の概要配置転換をきっかけに,さらなる長時間労働に従事し,業務上の過度のストレスを受け,精神障害を発症して平成18年9月16日に死亡したシステムエンジニアの両親が,会社に対し損害賠償を請求した事案の控訴審である。被災者は,精神障害により正常な判断ができなくなった状態でアルコールを過剰摂取して亡くなったが,一審の東京地裁は,会社の安全配慮義務違反を認め,同社に対し損害賠償を命じた。他方,被災者側の事情を踏まえ,20%の過失相殺を認めたため,原告・被告の双方が控訴した。
判示内容第一審に続き,東京高裁も会社の責任を認め,会社に対し損害賠償を命じた。
【高裁の判断】
・配置転換及びその後の長時間労働による心理的負荷は相当程度のものであった。
・被災者が精神障害を発症したのは業務上の負荷が原因である。
・被災者の死亡と業務には因果関係がある。
・会社には予見可能性がありながら必要な措置をとらなかった安全配慮義務違反がある。
本判決の意義 本判決は,第一審につづき控訴審でも精神疾患を原因とする急性アルコール中毒死が,実質的に精神疾患による自殺であると評価された事例である。
過重な業務により心身を害し,療養ひいては死亡に至る労働者が増えているが,システムエンジニアにおいてはこの傾向が顕著である。しかしながら,安全配慮義務を怠っている会社自身が,労働者が心身を害したのは健康管理を怠ったがゆえの自己責任であるとして,かような疾患を私病扱いし,かかる労働者を不当に解雇したり,会社の損害賠償責任を否定したりするケースも多く,中には,本件のように,行政による労災認定に公然と反旗を翻し,労災であることを認めず,企業責任を否定する会社すら現れている。
本判決は,そういった企業に対し,会社の責任を明確にし,システムエンジニアの勤務条件の改善・健康管理の充実等を強化し,働く者の命と健康を守るための裁判として重要な意義を有している。
判例掲載誌 労働判例1051号40頁


派遣労働者過労自殺事件損害賠償請求訴訟(上告審) 2011年9月30日勝訴決定
〓 実質派遣労働者の過労死・過労自殺事案,2交代勤務労働者の過労自殺事案(上告審) 〓
裁判所 最高裁第二小法廷
被災者 上段勇士 さん (男性 当時23歳)
被上告人兼相手方
(一審原告)
上段のり子 さん (被災者の母)
被上告人兼相手方
(一審原告)代理人
弁護士 川人博,弁護士 福岡真之介,弁護士 大森秀昭,弁護士 島田浩樹,弁護士 山下敏雅
上告人兼申立人
(一審被告)
株式会社アテスト(派遣元。旧商号は株式会社ネクスター),株式会社ニコン(派遣先)
事件の概要一審原告の次男・故勇士さんは、1997年10月27日,一審被告アテスト(旧ネクスター)に就職し、一審被告ニコンの熊谷製作所で派遣社員として勤務していたが,その業務が過重であったためうつ病を発症し,1999年3月5日ころ自殺した。
一審原告は,故勇士さんのうつ病発症および自殺の原因が過重な業務であるとして,安全配慮義務を怠った一審被告らに対し損害賠償請求訴訟を提起した。
一審判決は,一審被告らに安全配慮義務違反があると認め賠償金の支払を命じたが,賠償額を3割減額する等の内容であったため,一審原告は,判決の一部を不服として控訴を提起した。また,一審被告らも判決内容を不服として控訴を提起した。
控訴審判決は,一審原告の主張をほぼ全面的に認めた内容であったが,一審被告らはこれを不服として上告した。
決定内容最高裁第二小法廷は,一審被告らの上告を棄却し上告受理申立を受理しない旨,決定した。
本件訴訟の意義 本件は、故勇士さんが被告ニコンの熊谷製作所にて派遣労働者(形式上被告アテスト所属の下請け労働者)として過酷な深夜交替制勤務等の過重労働の結果、うつ病を発症し、1999年3月自死に至った事案である。東京高裁判決(2009年7月28日)は、一審東京地裁判決に続き被告両社の責任を認め、かつ、損害賠償額を一審より増額させ、過失相殺もなしとの判決内容であった。賠償総額は、遅延損害金を含め約1億円強である。今回、東京高裁判決が最高裁によって支持され確定したことは、働く者のいのちと健康を守るうえで、また、派遣労働者等の非正規雇用労働者の労働条件の改善のためにも極めて重要な意義を有する。


システムエンジニア労災死亡(精神疾患)事件 行政訴訟 2011年3月25日勝訴判決
〓 システムエンジニアの死亡(精神疾患)事案,行政訴訟で労災認定 〓
裁判所東京地裁民事第11部
被災者 西垣 和哉さん 男性(当時27歳)
原 告西垣 迪世さん(被災者の母)
原告代理人弁護士 川人博、弁護士 須田洋平
被 告国(処分をした行政庁:川崎北労働基準監督署)
事件の概要西垣和哉さんは,システムエンジニアとして勤務していたところ,平成14年12月から平成15年6月にかけての短期間で4回も配置転換を命じられ,平成15年4月に地上デジタル放送の実現に関連するプロジェクトに配置転換になったことから長時間労働が目立つようになった。そのため,和哉さんは,過重な業務に伴う業務上の過度のストレスを受け,精神障害を発症した。この精神障害の結果,和哉さんは過量に医師から処方された薬を服用するようになった。和哉さんは,休職と復職を繰り返したが,精神障害から回復することはなく,平成18年1月26日,過量服薬のため死亡した。
和哉さんの母親である迪世さんは,和哉さんの死亡が業務上の原因によるものであるとして,労災申請をしたが川崎北労働基準監督署はこれを認めなかった。審査請求,再審査請求も棄却されたので,迪世さんは国を被告として不支給処分の取消しを求めて提訴した。
判示内容判決は,業務と精神障害発症との相当因果関係,業務と死亡との相当因果関係を両方認め,川崎北労働基準監督署の労災不認定処分を取り消した。
本判決の意義 本判決は,働く者の命と健康を守るための裁判として重要な意義を有している。過重な業務により心身を害し,療養ひいては死亡に至る労働者が増えている中,特に,和哉さんのようなシステムエンジニアの間ではこの傾向が顕著である。2011年3月7日,同じくシステムエンジニアが長時間労働の末にアルコールを過剰摂取して死亡した事案において,東京地裁は,死亡が業務に起因するものであり,会社に安全配慮義務違反が認められるとして会社に対して損害賠償を命じた。他方,労災行政においては,業務と死亡との因果関係について硬直した判断を続けているために,不当に労災を認めない事例が相次いでいるが,本判決は,そのような労災行政のあり方に一石を投じるという意味で重要な意義を持つ。
 判例掲載誌 労働判例1032号65頁


システムエンジニア労災死亡(精神疾患)事件 損害賠償請求訴訟 2011年3月7日勝訴判決
〓 システムエンジニア労災死亡(精神疾患)事件 会社の賠償責任を認定 〓
裁判所東京地裁民事第13部
被災者 Eさん 男性(当時25歳)
原 告Eさんの両親
原告ら代理人弁護士 川人博、弁護士 須田洋平
被 告IT通信会社
事件の概要原告らの二男である被災者は,被告会社にシステムエンジニアとして勤務していたところ,平成18年7月の配置転換をきっかけに,さらなる長時間残業に従事することとなった。そのため,被災者は過重な業務に伴う業務上の過度のストレスを受け,精神障害を発症した。そして,その精神障害の結果,被災者はアルコールを過剰に摂取して,平成18年9月16日に死亡した。
本件は,被災者の両親である原告らが,被告に対し,被災者の死亡に伴う損害賠償を請求した事案である。
なお,本件に関する労災申請について,中央労働基準監督署は,平成19年10月10日,業務上の死亡であると認定している。
判示内容【因果関係】
以下の点から心理的負荷の強度の評価を「強」と認定し,被災者の精神障害と業務との因果関係を認めた。
・厚労省の判断指針を準用。
・平成18年7月の配置転換を心理的負荷の強度Uと認定。
・配置転換後の仕事は以前の仕事と異なり業務内容の変化が大きいこと,業務量が過多になったことを,それぞれ心理的負荷の強度Vに修正。
・死亡前2か月間の時間外労働時間が1か月当たり100時間を超え,特に過重であると認定。
【安全配慮義務違反】
人事部長は長時間労働で過労死のリスクが高まることを知っており,かつ,上司も人事部長も被災者の長時間労働を認識していたことから,業務上の心理的負荷等の過度の蓄積により,被災者の心身の健康が損なわれることを予見できたにもかかわらず被災者に十分な支援をしていないとして,安全配慮義務違反があると認定した。
本判決の意義 本判決は,精神疾患を原因とする急性アルコール中毒死について初めて使用者(会社)の法的責任を認めたものであり,極めて重要な意義を有する。
また,システムエンジニアの多くが過労ストレスから精神疾患を発症する例が続いており,勤務条件の改善・健康管理の充実等を強化することが大切である。
今月が政府による自殺対策強化月間となっているが,本件のような事案は実質的に精神疾患による自殺と評価されるものであり,その意味でも本件のような被害を防止するために企業及び政府の責任は重大である。


(株)東芝社員うつ病事件の解雇無効確認等請求訴訟(控訴審) 2011年2月23日勝訴判決
〓 (株)東芝女性社員労災(うつ病)事件の解雇無効確認等請求控訴事件 〓
裁判所東京高裁第11民事部
一審原告 重光由美さん 女性 
一審原告代理人弁護士 川人博、弁護士 山下敏雅,外2名
一審被告大手電気メーカー((株)東芝)
事件の概要一審被告(東芝)に勤務する一審原告は,過重な業務が原因でうつ病に罹患し,休業を余儀なくされた。一審原告が業務上の疾病に罹患しているにもかかわらず,東芝は休職期間満了を理由に解雇通告を行った。一審原告は,解雇無効確認と損害賠償金等を求めて提訴した。一審判決は解雇は無効である旨,正当に判示したものの,損害額のうち特に慰謝料部分について認めた金額は低額であった。一審原告はこれを不服として控訴を提起した。
判示内容1 一審につづき,一審原告の病気(うつ病)が業務に起因する労災であることを認め,かつ,会社の安全配慮義務違反(責任)を認めた。
2 そして,一審につづき,解雇を無効とし,未払い賃金や慰謝料の支払いを命じた。
3 但し,会社の賠償すべき金額を全損害額の8割とした。
本件訴訟の意義 本判決は一審判決につづき,過重な業務が原因でうつ病に罹患した労働者を,会社が一方的に解雇するなど不利益取扱いをするケースに対して重大な警告を発するものである。
 判例掲載誌判例時報2129号121頁
労働判例1022号5頁
(一審判決 労働判例965号5頁) 


派遣労働者過労自殺事件損害賠償請求訴訟(控訴審) 2009年7月28日勝訴判決
〓 実質派遣労働者の過労死・過労自殺事案,2交代勤務労働者の過労自殺事案(控訴審) 〓
裁判所 東京高裁第24民事部
被災者 上段勇士 さん (男性 当時23歳)
被控訴人兼控訴人
(一審原告)
上段のり子 さん (被災者の母)
被控訴人兼控訴人
(一審原告)代理人
弁護士 川人博,弁護士 福岡真之介,弁護士 大森秀昭,弁護士 島田浩樹,弁護士 山下敏雅
控訴人兼被控訴人
(一審被告)
株式会社アテスト(派遣元。旧商号は株式会社ネクスター),株式会社ニコン(派遣先)
事件の概要一審原告の次男である故勇士さんは、平成9年10月27日,一審被告株式会社アテスト(旧ネクスター)に就職し、一審被告ニコンの熊谷工場において、派遣社員として勤務していた。故勇士さんが従事していた業務は,以下の点で過重なものであった。
@専門的かつ厳しい納期があった。
A反生理的な二交替制勤務であるにもかかわらず、産業衛生学会やILOの基準を幾重にも逸脱していた。
B閉鎖的で特殊な環境であるクリーンルーム内の作業であり,このような過重な業務に従事することにより、故勇士さんには疲労が蓄積して慢性疲労状態となった。
Cシフトの頻繁な変更(13回)により不規則な勤務であった。
D長期間の出張があった。
E大規模なリストラがなされ解雇への不安を抱いた。
F15日間連続して長時間勤務に従事したこと等の事由により、一層疲労が蓄積することになった。
過重な業務に従事した結果,故勇士さんはうつ病を発症し,一審被告アテストに退職を申し出たが受け入れられず、平成11年3月5日ころ自殺した。
一審原告は,故勇士さんのうつ病発症および自殺の原因が過重な業務であるとして,安全配慮義務を怠った一審被告らに対し損害賠償請求訴訟を提起した。本件はその控訴審である。
判示内容 東京高等裁判所第24民事部は,
@違法派遣であることを認め,
A深夜交替勤務の過重性を認め,
B時間外労働,休日労働を認め,
Cクリーンルームのストレッサーを認め,
Dうつ病自殺発症と業務との関係を認め,
E一審被告らの予見可能性と注意義務違反(安全配慮義務違反)を認め
一審被告らに賠償金の支払を命じた。
本件訴訟の意義 本判決は,一審原告側の主張をほぼ全面的に認めたもので,内容的にも高く評価できる。
そして,賠償額につき,原審が3割減額したことを是正し,かつ,故勇士の父親の相続分を含めて一審原告の請求を認容したことは正当である。
本判決は,派遣労働者の過重労働,ストレスが深刻なものであることを明確にしたものであり,企業及び政府は,かかる状況を改善するため,必要な施策を早急に講じるべきである。
 判例掲載誌 労働判例990号50頁


部下ハラスメント自殺の行政訴訟 2009年5月20日勝訴判決
〓 部下によるハラスメント自殺事件の労災認定請求行政訴訟事件 〓
裁判所 東京地方裁判所
被災者 Dさん 男性(当時50歳代)
原 告 Dさんの遺族(被災者の子)
原告ら代理人弁護士 川人博、弁護士 大村恵実
被 告国(処分庁 渋谷労働基準監督署長)
事件の概要フードサービス事業会社で約30年間にわたり料理長の業務に従事してきたDさんが、平成9年頃から執拗なハラスメント(嫌がらせ・脅迫)行為を部下から受け,うつ病を発症し、平成10年4月に自殺により亡くなった。
当該部下は、Dさんを誹謗中傷する内容のビラを関係先にも配布するなどし、不景気の折に会社と関係先との関係を悪化させた。これに対し会社は、Dさんに、約30年間従事した事業とは全く別事業への異動を命じた。Dさんは、異動先での初出勤の翌日に自殺したものである。
Dさんの子である原告らは,渋谷労働基準監督署に労災申請を行ったが不支給決定がなされ,審査請求・再審査請求を行うも,いずれも棄却の裁決がなされた。
そこで、原告らは、平成19年11月27日に、不支給決定の取消しを求める行政訴訟を提起した。
判示内容 「亡Dの精神障害の発症及び自殺は,亡Dが,その業務の中で,同種の平均的労働者にとって,一般的に精神障害を発症させる危険性を有する心理的負荷を受けたkとに起因して生じたものと見るのが相当であり,亡Dの業務と同人の精神障害の発症及び自殺との間に相当因果関係の存在を行程することができる。」と判示した。
本件訴訟の意義 本件は,Dさんに対する部下によるハラスメント(嫌がらせ・脅迫)及びこの事態に対する会社の不適切な対応(Dさんの配置転換)が心理的負荷となった。
職場におけるハラスメントについては,2007年10月,上司による部下に対するハラスメントが原因となった自殺につき労災と認める東京地裁判決(確定)が出された。
部下からのハラスメント(嫌がらせや脅迫)が原因となった自殺につき,裁判所で労災と認める判決は,今回が初めてであり画期的である。
労基署の自殺労災不認定(労災保険金不支給処分)が行政訴訟で取り消される判決が相次いでいるが,厚生労働省は,本件判決を真摯に受けとめ,労災行政の改善をはかるべきである。
また,本判決を受けて,本件企業はもとより使用者たる会社が,労働者の心身の健康を損なわないための対策,ハラスメント行為を職場から一掃するためのとりくみを強化することを強く求める次第である。
 判例掲載誌 判例タイムズ1316号165頁
判例時報2059号146頁
労働判例990号119頁


東芝社員労災(うつ病)事件の行政訴訟 2009年5月18日勝訴判決
〓 (株)東芝女性社員労災(うつ病)事件の労災認定請求行政訴訟事件 〓
裁判所東京地方裁判所
原 告  重光由美さん 女性 
原告代理人弁護士 川人博、弁護士 山下敏雅、弁護士 小川英郎、弁護士 島田浩樹
被 告国(処分庁 熊谷労働基準監督署長)
事件の概要原告は,株式会社東芝に就職し勤務していたところ,平成12年11月頃より社内で発足したプロジェクト業務に従事し,長時間残業・休日出勤や各種会議開催等の過重な業務により,業務上の過度のストレスを受け,そのためにうつ病に罹患し,平成13年9月4日より休業を余儀なくされた。そして,会社は,原告が業務上の疾病に罹患しているにもかかわらず,休職期間満了を理由に,平成16年9月9日付けで解雇する旨の通知を同年8月6日に行った。
原告は,同年9月8日に熊谷労働基準監督署に労災申請を行うとともに,同年11月17日に東芝を被告とする解雇無効確認等請求訴訟を提起した。その後,労災申請については,熊谷労働基準監督署が業務外決定を出したため,原告が国(熊谷労働基準監督署長)に対し,労災不支給処分の取り消しを求めたのが,本件訴訟である。
判示内容判決内容は2008年4月の判決とほぼ同じで,原告の主張が認められ,労基署の不支給処分を取り消す判決が言い渡された。
「原告の業務を巡る状況を見ると,原告は,新規性のある,心理的負荷の大きい業務に従事し,厳しいスケジュールが課され,精神的に追い詰められた状況の中で,多くのトラブルが発生し,さらに作業量が増え,上司から厳しい叱責に晒され,その間に本件会社の支援が得られないという過程の中で,その間,長時間労働を余儀なくされていた。以上の原告に対する心理的負荷を生じさせる事情は,それぞれが関連して重層的に発生し,原告の心理的負荷を一貫して亢進させていったものを認められるのであり,上記のような原告の業務による心理的負荷は,社会通念上,客観的にみて,精神障害を発症させる程度に過重であったといえる。」と判示した。
本件訴訟の意義 1 解雇無効確認等訴訟判決(昨年4月東京地裁民事11部)に続き,原告の疾患と業務との相当因果関係が認められ,原告の疾患が労災として認定されたことは,原告の権利救済につながる大きな一歩となる。
使用者たる会社(東芝)は,本日の判決を深く受け止め,不当な争いをやめ,速やかに解雇を撤回し原告の権利救済のための措置を講ずるべきである。
2 また,本件のような療養中精神疾患の事案で労基署の労災不支給処分を取り消す判決が出たことは,同種労災申請事案が増えている中で,精神疾患事案の労災行政の問題点を浮き彫りにしたものであり,労災行政を改善していくうえで重大な意義を有するものである。
厚生労働省は,本日の判決を深く受け止め,労災行政の改善に着手すべきである。
 判例掲載誌 判例タイムズ1305号152頁
判例時報2046号150頁


26年前の殺人事件損害賠償請求訴訟(上告審) 2009年4月28日勝訴判決
〓 都内小学校女性教諭殺人事件損害賠償請求上告事件 〓
裁判所最高裁判所
被害者  Cさん 女性(当時29歳) 
被上告人(一審原告)Cさんの遺族
被上告人代理人弁護士 川人博、弁護士 山下敏雅、弁護士 藤野義昭
上告人(一審被告)元学校警備員
事件の概要本件は、都内小学校に警備員として勤務していた上告人が、同じ小学校に教諭として勤務していた被害者を殺害したうえ、その遺体を約26年間にわたって自宅の床下に隠していた事案である。遺族は上告人に対し、不法行為責任に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。
一審判決は殺害行為による損害の請求を棄却し、遺体遺棄の点のみの慰謝料を認める内容であったため、控訴を提起した。
控訴審判決は,一審の不当判決を取り消し,殺害行為による損害についても賠償責任を認めたが,上告人はこれを不服として上告した。
判示内容被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月以内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当であるとし,本件においては特段の事情があるものというべきであり,民法724条後段の規定にかかわらず,本件殺害行為に係る損害賠償請求権が消滅したということはできないと判示した。
本件訴訟の意義  控訴審判決は,一審の不当判決を取り消し,殺害行為による損害についても賠償責任を認めたが,最高裁判決はこの正当な高裁判決を維持したものである。
 本判決は、民法724条後段の規定を形式的にあてはめることなく、被害者側を救済しており、社会正義にかなう判決として高く評価できる。これまで涙をのんできた被害者の人々を励ますものであり、被害者の人権を守り、発展させるうえで、画期的意義を有するものである。
 判例掲載誌 最高裁判所民事判例集63巻4号853頁
裁判所時報1483号139頁
判例タイムズ1299号134頁
判例時報2046号70頁
金融法務事情1881号42頁


(株)東芝社員うつ病事件の解雇無効確認等請求訴訟 2008年4月22日勝訴判決
〓 (株)東芝女性社員労災(うつ病)事件の解雇無効確認等請求事件 〓
裁判所東京地方裁判所
原 告  重光由美さん 女性 
原告代理人弁護士 川人博、弁護士 山下敏雅
被 告大手電気メーカー((株)東芝)
事件の概要原告は,被告株式会社東芝に就職し勤務していたところ,平成12年11月頃より被告会社内で発足したプロジェクト業務に従事し,長時間残業・休日出勤や各種会議開催等の過重な業務により,業務上の過度のストレスを受け,そのためにうつ病に罹患し,平成13年9月4日より休業を余儀なくされた。そして,東芝は,原告が業務上の疾病に罹患しているにもかかわらず,休職期間満了を理由に,平成16年9月9日付けで解雇する旨の通知を同年8月6日に行った。
本件は,原告が東芝に対し,解雇の無効確認(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認),並びに,治療費・賃金と傷病手当金等との差額分・慰謝料等及び平成16年9月以降の賃金を請求した事案である。
判示内容本日の判決は,原告側の主張をほぼ全面的に認め,
1 原告のうつ病発症(平成13年4月)は,平成12年12月から同13年3月にかけての長時間労働等業務に起因するものであり,
2 労基法19条1項により,解雇は無効であり,賃金の支払いを命じ,
3 被告に対し安全配慮義務違反があったとして損害賠償を命じた。
本件訴訟の意義 本判決は、今日の日本の職場の状況に照らして,画期的な意義を有する。
1 即ち,過重な業務が原因でうつ病に罹患した労働者を,会社が一方的に解雇するなど不利益取扱いをするケースが多い。本判決は,被告を含め日本の企業に対して重大な警告を発するものである。
2 また,本件で熊谷労基署の業務外決定の誤りが事実上明確となった。労働行政は,労働者を保護するべき役割を今後きちっと果たすことが強く求められる。
3 本件被告東芝は,日本の代表的な企業である。本判決を真摯に受け止め,職場を改善し,労働者の健康を守るよう抜本的に努力すべきである。
 判例掲載誌 労働判例965号5頁 


派遣労働者労災死亡事件の損害賠償請求訴訟 2008年2月13日勝訴判決
〓 派遣労働者労災死亡事件で派遣元・派遣先双方の賠償責任を認定 〓
裁判所東京地方裁判所
被災者  飯窪修平氏 男性(当時22歳) 
原 告飯窪愼三氏・可代美氏 (被災者の両親)
原告ら代理人弁護士 川人博、弁護士 山下敏雅
被 告被告1 大和製罐株式会社
被告2 株式会社テクノアシスト相模
事件の概要原告らの長男である被災者は,平成15年8月2日当時,被告テクノアシスト相模に雇用されて,同社より被告大和製罐東京工場に派遣され,本件工場にて被告大和製罐の業務命令を受けて,高さ約2メートルにあるベルトコンベアに向かって,缶の蓋の不良品の検査業務に従事していた。被告らは,被災者の転落を防止するための安全対策を何らしていなかった。このような被告らの安全配慮義務違反等により,被災者は,出勤した土曜日のお昼頃,作業中に脚立から転落して工場床に頭部を強打して負傷し意識不明となり,意識が戻らないまま,平成15年11月8日に入院先で死亡した。この労災事故死につき,原告らが被告らの責任を追及して提訴したものである。
判示内容《被告テクノアシスト相模の責任》
被告テクノアシスト相模は,被災者との間の雇用契約上の信義則に基づき,使用者として労働者の生命,身体,健康を危険から保護すべき義務(安全配慮義務)を負う。本件の認定事実によれば,本件検蓋作業を行うに際して,熱中症や体調不良などの異常が生じた場合に,作業者が転落する可能性が十分に考えられたというべきであるが,被告テクノアシスト相模は,転落防止の措置が施されていない本件作業台を被災者に使用させたというのであるから,安全配慮義務に違反したものというべきである。また,上記義務違反は不法行為にもあたるので,不法行為に基づく損害賠償責任も負う。
《被告大和製罐の責任》
被災者は,被告テクノアシスト相模に雇用されていたのであって,被告大和製罐に雇用されていたわけではない。しかし,安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として,信義則上,認められるものであるから,注文者と請負人の雇用する労働者との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合には,その間に雇用契約が存在しなくとも,注文者は当該労働者に対し,使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うものと解するのが相当であり,本件においては,被告テクノアシスト相模の従業員は,実質的には被告大和製罐の指示のもとに労務の提供を行っていたと評価されるから,被告大和製罐と被告テクノアシスト相模の従業員との間には,実質的に使用従属関係が生じているものと認められる。よって,被告大和製罐は,被告テクノアシスト相模の従業員に対し,信義則上,安全配慮義務を負う。その具体的内容については,被告テクノアシスト相模の場合と同様であるところ,被告大和製罐は,転落防止の措置が施されていない本件作業台を被災者に使用させたものであるから,安全配慮義務に違反したものというべきである。また,上記義務違反は不法行為にもあたるので,不法行為に基づく損害賠償責任も負う。
本件判決の意義本件判決は,派遣元・派遣先の安全配慮義務違反及び不法行為の注意義務違反を認定し,両者に賠償を命じたものである。製造工場への派遣が増え,労災の多発が指摘されている現在,両者の責任を明確にしたことは,重要な意義を有し,経営者に警告を発するものである。
 判例掲載誌 判例タイムズ1271号148頁,判例時報2004号110頁,労働判例955号13頁


26年前の殺人事件損害賠償請求訴訟(控訴審) 2008年1月31日勝訴判決
〓 都内小学校女性教諭殺人事件損害賠償請求控訴事件 〓
裁判所東京高等裁判所
被害者 Cさん 女性(当時29歳) 
控訴人Cさんの遺族
控訴人代理人弁護士 川人博、弁護士 山下敏雅、弁護士 藤野義昭
被控訴人元学校警備員
事件の概要本件は、都内小学校に警備員として勤務していた被控訴人が、同じ小学校に教諭として勤務していた被害者を殺害したうえ、その遺体を約26年間にわたって自宅の床下に隠していた事案である。遺族は被控訴人に対し、不法行為責任に基づく損害賠償請求訴訟を提起したが、一審判決は殺害行為による損害の請求を棄却し、遺体遺棄の点のみの慰謝料を認める内容であったため、控訴を提起した。
判示内容被控訴人による本件殺害行為及び死体遺棄行為が不法行為を構成することはいうまでもないが、被控訴人が不法行為を完了した日から起算して控訴人らが本訴提起等の権利行使を行った時点において、既に20年が経過していることから、特段の理由がない限り、上記不法行為に基づく損害賠償請求権は民法724条後段により、当然に消滅したことになるというべきである。しかし、特定人の死亡の事実が相続人に知られないことになったのが当該不法行為に起因する場合であっても、被害者の相続人は、およそ権利行使が不可能であるのに、単に20年が経過したということをもってのみ一切の権利行使が許されないこととなる反面、殺害を行った加害者は、20年の経過によって被害者に対する損害賠償義務を免れる結果となり、著しく正義・公平の理念に反するものといわざるを得ない。そうすると、少なくとも上記のような場合にあっては、当該相続人を保護する必要があり、その限度で民法724条後段の効果を制限することは条理にもかなうというべきである。したがって、不法行為により被害者が死亡し、不法行為の時から20年を経過する前に相続人が確定しなかった場合において、その後相続人が確定し、当該相続人がその時から6か月内に相続財産に係る被害者本人の取得すべき損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法160条の法意に照らし、上記相続財産に係る損害賠償請求権について同法724条後段の効果は生じないと解するのが相当である。これを本件についてみてみると、特段の事情があるものというべきであり、民法724条後段の規定にかかわらず、本件殺害行為に係る不法行為により被害者が取得すべき損害賠償請求権が消滅したということはできないと判示した。
本件訴訟の意義 本判決は、除斥期間の規定を形式的にあてはめることなく、被害者側を救済しており、社会正義にかなう判決として高く評価できる。これまで時効・除斥期間の形式的適用によって涙をのんできた被害者の人々を励ますものであり、被害者の人権を守り、発展させるうえで、画期的意義を有するものである。
 判例掲載誌 判例タイムズ1268号208頁,判例時報2013号68頁


職場のハラスメントによる自殺行政訴訟 2007年10月15日勝訴判決
〓 職場のハラスメントによる自殺事案、行政訴訟で初の労災認定 〓
裁判所東京地方裁判所
被災者  Aさん 男性(当時35歳) 
原 告 Aさんの妻 (被災者の妻)
原告代理人 弁護士 川人博、弁護士 山下敏雅
被 告 国(処分庁 静岡労働基準監督署長)
事案の概要 本件は、製薬会社において13年間何の問題もなく業務に従事してきたMR(医療情報担当者)であったAさんが、平成14年4月に新係長が赴任してきた後、同人からのハラスメントを原因としてうつ病を発症し、さらに短期間に複数の取引先とのトラブルを生じて、平成15年3月7日に自殺により亡くなった事案である。
遺族は、Aさんの自殺が業務上のストレスに起因するものとして静岡労働基準監督署に労災申請を行ったが、不支給決定がなされたことから、同処分の取消しを求める行政訴訟を提起した。
判示内容判決は、上司の言動により、社会通念上、客観的にみて精神疾患を発症させる程度に過重な心理的負荷を受けており、他に業務外の心理的負荷や個体的脆弱性も認められないことからすれば、Aさんは、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、精神障害を発症したと認めた。さらに、精神障害を発症したAさんは、当該精神障害に罹患したまま、正常の認識及び行為選択能力が当該精神障害により著しく阻害されている状態で自殺に及んだと推定し、この評価を覆すに足りる特段の事情は見当たらないから、Aさんの自殺は、故意の自殺ではないとして、業務起因性を認めるのが相当と判示した。
本件訴訟の意義 本件判決は、職場におけるハラスメント(上司によるいじめ)によってうつ病となり自殺した事案について業務上の死亡(労災)と認定したものであり、画期的意義を有する。
自殺事案については、ここ数年間、長時間労働による過労を原因とする事案では、相当数の労災認定は出て、また訴訟でも原告が勝訴しているが、本件のようにハラスメントを原因とする自殺事案で、判決で労災が認められたのは、初めてのケースとなる(長時間労働とハラスメントが併存したケースはあった)。
日本の職場では、ハラスメントのうち、"セクハラ"については、法的規制も行われているが、上司による部下への暴言・嫌がらせ等いじめの行為は、ほとんど放置されている。
本件勝訴を踏まえ、企業及び厚生労働省がハラスメントをなくすために力を尽くすことを強く求める次第である。
 判例掲載誌 判例タイムズ1271号136頁,労働判例950号5頁


海外出張中の過労自殺行政訴訟 2007年5月24日勝訴判決
〓 海外出張中の自殺事案、行政訴訟で2件目の労災認定 〓
裁判所東京地方裁判所
被災者  Aさん 男性(当時56歳) 
原 告 Aさんの妻 (被災者の妻)
原告代理人 弁護士 小川英郎、弁護士 川人博
被 告 国(処分庁 八王子労働基準監督署長)
事案の概要 Aさんは、主に監理業務を行う土木技師であったが、平成11年10月1日、セントヴィンセント及びグレナディーンズ諸島国に出張中、うつ病を発症し自殺した。Aさんの妻である原告は、八王子労働基準監督署長に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付請求をしたが、同署長は、Aさんのうつ病は業務に起因することの明らかな疾病とは認められないとして不支給の決定をした。本件は、原告が本件処分を不服として、その取消しを求める事案である。
判示内容平成11年4月、カリブ海の小国であるセントヴィンセントに単身赴任し、かつ一人の事務所での勤務であり、そのこと自体一般的に心理的負荷は軽くない上、在留資格の延長許可がうまく受けられなかったばかりか、その結果、頻繁に在留資格が切れる状態に陥っており、その状態は、Aが自殺するまで解決せず、自殺の直前にも同様の状態に陥っている。その労働環境や生活環境が十分な休息や息抜きをし得る環境でもない中で、海外赴任の基礎となる在留資格の問題が継続して生じていたこと自体、過大な心理的負荷となり得るものと解される。そのような問題に頭を悩ませ続けていた同年7月下旬、ドミニカ国に出張した際、入国目的を偽ったとして逮捕すると政府関係者から言われたのであるから、その心理的負荷が極めて強かったことは明らかである。さらに、9月にはいると、再度、単身赴任の状態となり(原告は7月17日から8月25日までセントヴィンセントを訪れていた)、労働時間も著しく増加する中、セントヴィンセントでの常駐要員の滞在期間に関する方針が変更されるなど、心理的負荷となりうる事態が立て続けに生じた。Aが経験した上記の各事象は、いずれも平均的労働者にとっても過度の心理的負荷となり得るものであったと解され、社会通念上、精神疾患を発症・増悪させる程度の危険を有するものであり、Aのうつ病の発症・増悪及び自殺に至る一連の過程は、これらの業務に内在する危険が現実化したものというべきである。
本件訴訟の意義  本件は、頻発する海外出張中の労働者の自殺につき重大な警告を発するという点で、重要な意義を持つ。
 企業・行政当局が、海外で働く人々のメンタルヘルス対策、心身の健康を損なわないようにする対策を講ずるよう、強く求める次第である。海外出張中の労働者の自殺につき行政訴訟で業務上と判断されたのは、今回が2件目である。(1件目は1996年4月神戸製鋼事件神戸地裁判決確定)
判例掲載誌  判例タイムズ1261号198頁,判例時報1976号131頁,労働判例945号5頁


小児科医師自殺事件行政訴訟 2007年3月14日勝訴判決
〓小児科医師の自殺事案、行政訴訟で初の労災認定 〓
裁判所東京地方裁判所
被災者  中原利郎氏 男性(当時44歳) 
原 告 中原のり子氏 (被災者の妻)
原告代理人 弁護士 遠藤直哉、弁護士 弘中絵里、弁護士 岩崎政孝、弁護士 川人博、
被 告 新宿労働基準監督署長(国)
事案の概要 都内病院小児科の部長代行の職にあった中原利郎は、平成11年8月16日、病院屋上から飛び降り自殺した。 利郎の妻である原告は、被告に対し、利郎は業務に起因してうつ病に罹患していたため本件自殺に至ったとして、労働者災害補償保険法所定の遺族補償給付の請求をしたところ、 被告は、本件疾病が業務上の事由によるものとは認められないとして、これを不支給とする処分をした。本件は、原告が本件処分を不服として、その取消しを求める事案である。
判示内容のポイント(1)判決は、次の点で業務上の負荷を認めた。
・小児科部長代行職に就いた直後、医師2名の退職意思の表明を契機として発生した宿直当番の調整問題や補充医師の確保の問題が心理的負荷となった。
・平成11年3月の宿直勤務の回数(8回)の業務は、勤務・拘束時間が長時間化した場合にも比すべきストレス要因となった。
  ・2名の医師が退職した後の勤務状況は、高度の専門職である医師を束ね、かつ、補充医師の確保が極めて困難であることから個々の医師の去就につき大きな関心を抱かざるを得ない立場にある管理職にとって、特に心理的負荷がかかる性質のものであった。
(2)業務外の負荷について
 家族に関係する心理的負荷の原因は特に見当たらず、被告が主張する親族に関係する心理的負荷の原因については的確な証拠はないとした。
(3)被災者の性格(個体的要因)
 うつ病発症との関係で有力な原因があるとは認めなかった。
(4)うつ病発生・自殺と業務との相当因果関係
 業務に起因してうつ病に罹患し、その判断能力が制約された状況で、うつ病による自殺念慮から自殺に及んだものと認めた。
本件訴訟の意義  本件は、小児科医師の過労自殺につき労災認定を認めたという点で、重要な意義を持つ。
 深刻な小児科医師の労働条件に対する警告を発するものでり、この判決を重くうけとめ、政府・病院関係者等が、全力を挙げて事態の改善に動くことを強く求める次第である。このことは、医師の労働条件の改善とともに、小児科医療の改善にとっても不可欠なことがらである。
 判例掲載誌 労働判例941号57頁


アスベスト悪性中皮腫損害賠償請求訴訟 2006年12月14日勝訴判決(一審被告による上告の不受理決定)
〓 石綿被害で悪性中皮腫死、企業責任が最高裁で初の確定 〓
 裁判所東京高等裁判所
  被災者  匿名希望 男性(享年51歳)
  原告 匿名希望(被災者の妻及び子ら)
  一審原告代理人 弁護士川人博
  一審被告 関西保温工業株式会社
  事案の背景
アスベストによる人身被害
 クボタがアスベスト(石綿)による深刻な被害を認めたことが契機となって、アスベストによる肺がん、悪性中皮腫の被害が大きな社会問題としてクローズアップされている。日本では、1960年代から70年代にかけて、耐火材、断熱材、保温材等としてアスベストが広く使用された。
 アスベストによるじん肺(石綿肺)に関しては、粉じん吸入から比較的早い段階で症状が出るため、1970年代には患者・遺族から企業責任を追及する訴訟が提起されていた。
 これに比して、アスベストによる悪性中皮腫は、アスベスト粉じん吸入後約30〜40年も経過してから発症するために、日本での発症例の多くが、1995年頃以降となっている。
 企業に対する賠償責任の追及に関して、訴訟として係属している事案は、現時点ではまだ少ない。最高裁で確定したのは、今回が初めてである。
  東京地裁、東京高裁判決  2004年9月16日、東京地裁民事27部は、悪性中皮腫に関して初めて企業責任を認める判決を出した。
 被災者は、被告会社(関西保温工業株式会社)に勤務した時期(1963年から1984年)のうち約15年間、石油コンビナートの加熱炉補修工事などの現場監督を行っており、その際にアスベスト粉じんを吸入した。1995年9月頃に胸の痛みを訴えはじめた被災者は、翌96年5月に悪性胸膜中皮腫と診断され、同年8月に死亡した。関西保温が労災申請に非協力的だったため、労災認定まで時間がかかったが、1999年11月に認定され、被災者の家族は、同年12月に損害賠償訴訟を提起した。
 関西保温は、因果関係自体を争ったが、東京地裁は、関西保温勤務中にアスベストに暴露したことと悪性中皮腫罹患・死亡との間に因果関係があると認定した。そして、訴訟終盤で実質的に最大の争点となった予見可能性について、東京地裁は、福岡高裁平成元年3月31日日鉄鉱業事件判決(「安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない」)に基づき、本件では、「石綿粉じん吸入によって、その生命・健康を害する離京を受けることについて予見可能性があった」と判断した。そして、過失相殺なしとされ、労災保険金損益相殺後の金額の支払いを命ずる原告全面勝訴の判決となった。
 なお、関西保温退職後に勤務したI社も若干の粉じん職場があったので被告としたが、このI社への請求が、業務と発病との因果関係が認定されず、棄却された。
 関西保温が控訴したが、2005年4月27日東京高裁判決(第5民事部)が出され、地裁の内容がほとんど維持された。損害額が一定減額されたものの(慰謝料額及び労災保険金損益相殺)、引き続き過失相殺なしの責任が認められた。
上告受理申立に対する不受理決定  控訴審判決に対して関西保温が上告受理申立をおこなったが、2006年12月14日、最高裁第1小法廷が、不受理決定の決定を行い、東京高裁判決が確定した。
 本決定は、全国の、アスベスト悪性中皮腫の企業責任を追及する訴訟に対して、リーディングケースとして、極めて重要な影響を与えるものといえる。
 判例掲載誌 ※控訴審判決 労働判例897号19頁


製薬会社社員自殺事件行政訴訟 2006年11月29日勝訴判決
  裁判所さいたま地方裁判所
  被災者  匿名希望 男性(享年52) 
  原告 匿名希望(被災者の妻)
  原告代理人 弁護士川人博、弁護士川合順子、弁護士天野義章
  被告 さいたま労働基準監督署長
  訴訟提起 2003年9月25日(さいたま地方裁判所)
  事案の概要 (1) 被災者は1968年に製薬会社に入社、工場で品質管理に従事
(2) 1997年11月26日自殺死。当時52歳
(3) 1999年11月22日、原告がさいたま労働基準監督署長(当時大宮労働基準監督署長)に労災申請
(4) 2002年10月2日、業務外決定
(5) 2002年11月25日、埼玉労災保険審査官へ審査請求
(6) 2003年3月25日、埼玉労災保険審査官 審査請求棄却
(7) 2003年5月12日、労働保険審査会へ再審査請求
(7) 2003年9月25日、さいたま地裁に提訴
  判示内容のポイント (1) 判決は、次の点で業務上の負荷を認めた。
・1996年10月に品質管理責任者となり、前任課長が病気で倒れ、また他に定年退職した者もあり、これらの補充がなく、人員は徐々に減らされる傾向にあった。この結果、被災者の責任と負担が増した。
・現場のトラブルに適切な対応ができず、周囲や部下から文句が出され、馬鹿にされた。
・規格書の改訂のため労力と時間を要し、期限である11月26日に終了する見込みがなく、心理的負荷を与えた。
(2) 業務外の負荷について
・株取引の損失が心理的負荷を与えたと認定したが、うつ病の発症・増悪の決定的な原因でないと認定した。
・家族関係に関して、心理的負荷の原因とは認定しなかった。
(3) 被災者の性格(個体的要因)
・既往症(脳梗塞)や本人の性格について、うつ病と関連するものとは認めなかった。
(4) うつ病発症・自殺と業務との相当因果関係
・被災者が1997年8月ないし11月にうつ病を発症しtこと、11月頃から顕著に増悪し、自殺したと認定
・うつ病の発症・増悪は業務によるストレスが有力な一因となったと認定し、業務と被災者のうつ病発症・増悪のとの間には相当因果関係があると認定
  本件訴訟の意義  本件は、製薬会社社員の過労自殺につき労災認定を認めたという点で、重要な意義をもつ。
 人間のいのちと健康を守る業種の製薬会社において、従業員が業務上の過労・ストレスで病気になり死亡するということは、絶対にさけねばならないことである。
 この会社では、他の支店でも従業員の自殺が発生し、現在東京地裁で行政訴訟が係属している事案がある。
 本日の判決を真摯に受け止めて、企業経営者や管理職が、深く反省して、職場の改善のために必要な措置を講ずることを求める。
 判例掲載誌  労働判例936号69頁


新入社員過労自殺行政訴訟 2006年11月27日勝訴判決
〓 新入社員の受ける心理的負荷を考慮した勝訴判決 〓
  裁判所東京地方裁判所
  被災者  石澤史教 氏(享年23歳) 
  原告 匿名希望 被災者の父母
  原告代理人 弁護士川人博、弁護士山下敏雅
  被告 国(原処分庁:真岡労働基準監督署長)
  訴訟提起 2005年6月2日(東京地方裁判所)
  事案の概要 (1) 被災者は2002年4月より加工食品類の卸売販売会社に入社、10月より研修が明け、2社3店舗を担当。
(2) 2002年12月24日自殺死。当時23歳。
(3) 2003年5月、原告らが真岡労働基準監督署長に労災申請
(4) 2004年8月5日、業務外決定
(5) 2004年9月2日、栃木県労災保険審査官へ審査請求
(6) 2005年2月2日、栃木県労災保険審査官 審査請求棄却
(7) 2005年2月23日、労働保険審査会へ再審査請求
(7) 2005年6月2日、東京地裁に提訴
  判示内容の特徴点 (1) 原告側の主張(事実、評価)をほぼ全面的に認めた。
 死亡前3か月につき,10月は150時間22分、11月は149時間40分、12月は112時間36分と認定。 (2) 故人の心理的負荷について、「新人時代という人生における特別な時期において、人によっては経験することもあり得るという程度に強度のものと認めるべき」とした。
 具体的には、仕事内容・仕事量の変化、取引先との人間関係、社用車による交通事故(自損)、「予算」(ノルマ)の不達成等によって、心理的負荷があったことを認定した。
(3) 長時間労働による睡眠不足を認定した。
(4) 故人は、脆弱性を問題にするほどの性格的傾向を有するものと認めなかった。
  本件訴訟の意義  本件は、新入社員の過労自殺の労災認定を認めたという点で、重要な意義をもつ。すなわち、現在の日本の職場では、新入社員が、入社1年目や2年目で、うつ病に罹患し、ついには自殺に至る事例が相次いでいる。この原因として、各企業が、十分な研修・教育を行わないまま、新入社員を「即戦力」として活用し、経験・能力を配慮せずに働かせている事実がある。このような事態を、日本の経営企業者や管理職は、深く自省して、職場の改善のために必要な措置を講ずるべきである。
 本判決は、国側が控訴せずに確定した。
 なお、企業の安全配慮義務違反を問う訴訟は、2006年7月に和解が成立している。
 判例掲載誌 判例タイムズ1237号249頁,判例時報1957号152頁,労働判例935号44頁


派遣労働者過労自殺事件損害賠償請求訴訟 2005年3月31日勝訴判決
〓 実質派遣労働者の過労死・過労自殺事案、2交代勤務労働者の過労自殺事案として初の勝訴判決 〓
  裁判所東京地方裁判所
  被災者 上段勇士 氏(平成11年3月5日ころ自殺により死亡、享年23歳) 
  原告 上段のり子 氏(被災者の母)
  原告代理人 弁護士川人博、弁護士福岡真之介
  被告 株式会社アテスト(派遣元。旧商号は株式会社ネクスター)、株式会社ニコン(派遣先)
  訴訟提起 2000年7月18日(東京地方裁判所)
  事案の概要
(原告訴状より抜粋)
第1 事案の概要
 原告の次男である上段勇士(以下「勇士」という)は、平成9年10月27日に被告株式会社アテスト(旧ネクスター。なお、本準備書面においては勇士在籍当時の商号である「被告ネクスター」という)に就職し、被告ニコンの熊谷工場において、派遣社員として勤務し、ステッパーの検査業務に従事していたところ、過重な労働による過労のため、うつ病を発症し、平成11年3月5日ころ自殺した。
第2 勇士の業務及び雇用形態
1 勇士は、平成9年12月15日から平成11年2月25日まで、原則として、昼夜二交替勤務(昼勤8:30〜19:30 夜勤20:30〜7:30)という勤務形態にて、クリーンルーム内において、ステッパーの検査業務に従事していた。
2 勇士は、被告ネクスターと雇用契約を締結していたが、被告ニコンの熊谷製作所にて、被告ニコンのステッパーの検査に従事していた。被告ネクスターの監督者が現場に不在なことからも明らかなように勇士は被告ニコンの指揮命令に従っており、かつ被告ネクスターは作業の完成について責任を負っておらず、職業安定法施行規則第4条に定める要件を満たしていないことから、勇士の勤務は請負ではなく、その実質は派遣労働であった。
3 被告ネクスターは、その実質は労働者派遣であるにもかかわらず、労働者派遣事業(労働者派遣事業法第16条)の届出もせずに、請負という名を借りて、労働者派遣事業法を潜脱して、労働者供給事業を行っていた。このような労働者派遣事業法を潜脱して、労働者供給事業を行うことによって、(1)職業安定法第44条で禁止されている労働者供給事業を行うことにより、労働者に不利益を生じさせる、(2)労働者派遣事業法の保護すら受けることができなくなるという問題が生じる。
 すなわち、職業安定法第44条は労働者供給事業を行うことを厳しく禁止しているが、その趣旨は、労働者供給事業により労働者が中間搾取されること、労働者の地位が不安定となること、労働者の就業条件が不明確となること、労働保護法規上の責任主体が不明確になることから、かかる事態を防止することにある。しかし、被告らによる労働者派遣事業法の潜脱によって、上記の労働者供給事業によって生じる労働者の不利益が、勇士に対しても生じることになった。
 また、労働者派遣事業法を潜脱することにより、被告ニコンは同法の定める派遣先としての義務、具体的には、労働者派遣契約に定められた就業条件に反することのないように適切な措置を講じる義務(同法第39条)、派遣就業が適切に行われるために必要な措置を講じるように努める義務(同法第40条2項)、派遣労働者からの苦情について適切・迅速な処理をする義務(同法第40条1項)、「派遣先責任者」を選定する義務(同法第41条)を遵守することもないため、派遣労働者ですら与えられている保護(但し、低い保護であるが)すら、勇士には与えられなかった。
 その結果、勇士は労働者として極めて不安定で、権利主張することが困難な地位に立たされることになった。
第3 業務の過重性
1 勇士の従事したステッパーの検査業務は、被告ニコンが検査員を募集するにあたり大学もしくは高等工業専門学校等で工学、電気・電子工学、情報処理技術等を専攻した者に限定していたことから明らかなように、高度で専門的であった。また、厳しい納期が課されており、納期に間に合わせるために短期間に無理をして作業を完成させなければならなかった。
2 夜勤・二交替制勤務は生体リズムに反することから、かかる勤務により、労働者の諸生理機能の乱れは日常的に反復され、睡眠の質・量が低下して睡眠不足になり、疲労蓄積が進み、慢性疲労状態を形成する。このような夜勤・二交替制勤務に労働者を従事させる場合には、少なくとも産業衛生学会の意見書で示されている基準((1)交代勤務による週労働時間は、通常週において40時間を限度とする。(2)時間外労働は、原則として禁止し、あらかじめ予測できない臨時的理由にもとづくものに限り、年間150時間程度以下とすべきである。(3)深夜業を含む労働時間は、1日につき8時間を限度とする。(4)深夜業を含む勤務では、勤務時間内の仮眠休養時間を、拘束8時間について少なくとも連続2時間以上確保することが望ましい。(5)深夜勤務は原則毎回1晩のみにとどめるようにし、やむをえない場合でも2〜3夜の連続にとどめるべきである。(6)各勤務時間の間隔は原則として16時間以上とし、12時間以下となることは厳に避けなければならない。(7)月間の深夜業を含む勤務回数は8回以下とすべきである。(8)年次有給休暇を除く年間休日数は、常日勤者なみに確保する等。)を遵守すべきである。しかし、被告らは、産業衛生学会の意見書で示されている基準を幾重にも違反した夜勤・二交替制勤務に勇士を従事させた。
3 クリーンルームは、空気の清浄度を保つため外界から隔絶された閉鎖環境であり、全身を密閉するクリーンウェア・マスク・手袋を着用しなければならず、休憩・食事・用便等の日常生活的生理的要求についても厳しい制限がある労働環境であり、閉鎖圧迫感、ウエアの不便さ、立ち作業の多さにより、疲労を蓄積しやすく、精神疾患を引き起こしやすいものである。
4 シフトの頻繁な変更による不規則勤務、海外出張を含む出張での長時間労働、外部労働者としての不安定な地位によるリストラへの不安、新型開発機のソフト検査のための15日間連続の長時間勤務及びその後の深夜勤務は、いずれも勇士に肉体的・精神的負荷を与えるものであった。
5 このように、勇士の従事した業務に関して、(1)ステッパーの検査業務は専門的かつ厳しい納期があった、(2)反生理的な二交替制勤務であるにもかかわらず、産業衛生学会の基準を幾重にも逸脱していた、(3)閉鎖的で特殊な環境であるクリーンルーム内の作業であった。このような過重な業務に従事することにより、勇士には疲労が蓄積して慢性疲労状態となった。
 さらに、そのような慢性疲労状態の上に、(4)シフトの頻繁な変更(13回)により不規則な勤務であったこと、(5)長期間の出張があったこと、(6)大規模なリストラがなされ解雇への不安を抱いたこと、(7)15日間連続して長時間勤務に従事したこと等の事由により、一層疲労が蓄積することになった。
 以上のとおり、勇士の業務は過重なものでった。
第4 うつ病の発症及び自殺
1 第3で述べた過重な業務に従事した結果、勇士は、平成10年11月の時点で「軽症うつ病エピソード」を発症した。
2 勇士は、平成11年1月、被告ネクスターの要請により急遽、劣悪な住環境のアパートに引越し、また15日間連続の長時間勤務に従事した。これにより、軽症うつ病に陥っていた勇士のうつ病エピソードは増悪し、平成11年2月中旬には「中等症うつ病エピソード」に陥った。
3 勇士は、過重な業務から解放される最後の逃げ道として被告ネクスターに退職を申し出たが、受け入れられず、最後の逃げ道も塞がれることになったためにうつ病が一層悪化し、平成11年3月5日(推定)に自殺した。
第5 因果関係
 勇士の業務が上記のとおり過重なものであったことや、うつ病の発症経緯及び医学的知見(例えば、「精神疾患発症と長時間残業との因果関係に関する調査」は「交代勤務に従事した年数がうつ病発症の危険率を高めることは明らかとなった」としている)に照らせば、業務と勇士のうつ病発症及び自殺との間には相当因果関係が認められる。
第6 安全配慮義務
1 使用者が、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負うことは確立した判例である(最判平成12年3月24日)。
2 被告らはかかる安全配慮義務を負っているにもかかわらず、勇士について主に以下のような重大な安全配慮義務違反がある。
 (1) 夜勤・交替制勤務に就く労働者が勤務時間・夜勤回数等において業務が過重にならないように使用者は注意すべきであるのにもかかわらず、産業衛生学会の基準に違反した夜勤・交替勤務に従事させた。
 (2) 夜勤・交替制勤務に就くことのある労働者には健康状態に十分配慮し、不規則勤務により身体の変調をきたすことがないように注意すべきであるのに、シフトを頻繁に変更して不規則勤務に従事させ、休息・休日を確保すべきであるにもかかわらず15日間連続の長時間勤務に従事させ、負荷が高い海外出張を含む長期の出張・高度なソフト検査・劣悪な環境への突然の引越しを命じた。
 (3) 人体に有害で劣悪なクリーンルーム内での労働条件を改善すべきであるのにこれを怠った。
 (4) 実質は派遣にもかかわらず請負形式という脱法行為を行い、派遣労働者に対しての最低限の派遣労働者事業法に定める義務すら履行せず、勇士の労働条件を不安定で劣悪なものとした。
 (5) 労働安全衛生法に定める法定健康診断を実施して、労働者の健康状態を把握すべきであるのにこれを怠った。
 (6) 勇士が無断欠勤・退職申出をした際には、メンタルヘルスの観点から異常を察知し、適切な対処をすべきであったにもかかわらず、2週間も何らの措置もとらなかった。
第7 結論
 よって、被告らは、債務不履行責任及び不法行為に基づく損害賠償として、勇士の死亡によって生じた損害金1億4455万5294円を原告に対して連帯して賠償すべき責任がある。
  本件訴訟の意義 (1)実質派遣労働者の過労死・過労自殺事案としては、初めての判決である。
派遣労働者が年々増加して劣悪な労働条件・不安定な権利関係におかれているなかで、その実態を告発し、改善を迫るものである。
(2)2交代勤務労働者の過労自殺事案としては、初めての判決である。
従来より長時間労働事案での勝訴判決はあるが、深夜勤務の過重性を正面から問題にして業務と死亡との因果関係を認めたことは重要であり,深夜勤務者の健康をまもるために重要な判決である。
(3)近年クリーンルーム内でのうつ病・自殺者の増大が重要な問題となっている。
密閉された「機械や製品のための」空間は、心身の健康をそこなう危険があり、この労働環境での仕事のあり方の改善を実現するうえでも、意義ある判決である。
  上段さんのHP  派遣社員過労自殺裁判 〜「派遣」へのメッセージ 〜
 http://www10.ocn.ne.jp/~karoushi/
 判例掲載誌 判例タイムズ1194号127頁,判例時報1912号40頁,労働判例894号21頁


医師過労自殺事件の遺族補償給付不支給処分取消請求事件 2005年2月22日勝訴判決
〓 医師の自殺を行政訴訟で労災と認めた史上初の判決 〓
  裁判所水戸地方裁判所
  被災者  匿名希望 男性(享年29歳) 
  原告 匿名希望 被災者の父
  原告代理人 弁護士川人博
  被告 土浦労働基準監督署長
  訴訟提起 2002年8月22日(水戸地方裁判所)
  事案の概要 (1) 被災者は1989年10月より1992年3月31日まで土浦協同病院の外科勤務医として勤務、4月より別の病院に転勤。
(2) 1992年4月7日自殺死。当時29歳。
(3) 1997年4月7日、原告が土浦労働基準監督署長に労災申請。
(4) 1997年10月23日、業務外決定
(5) 1999年2月25日、茨城県労災保険審査官 請求棄却
(6) 2002年5月16日、保険審査会 再審査請求棄却
(7) 2002年8月22日、水戸地裁に提訴
  判示内容の特徴点 (1) 2年半の期間の過重労働を、うつ病の原因と評価した。
 被災者の時間外労働時間について、最大259.5時間、平均170.6時間に及んでいたことを認定。
年月 時間数 年月 時間数 年月 時間数
1989年10月 175.0 1990年8月 123.5 1991年6月 160.0
1989年11月 202.5 1990年9月 127.0 1991年7月 171.0
1989年12月 259.5 1990年10月 166.0 1991年8月 155.0
1990年1月 235.5 1990年11月 168.0 1991年9月 178.0
1990年2月 157.5 1990年12月 189.5 1991年10月 183.0
1990年3月 156.5 1991年1月 146.5 1991年11月 186.0
1990年4月 175.5 1991年2月 169.0 1991年12月 131.0
1990年5月 179.5 1991年3月 170.0 2000年1月 183.5
1990年6月 167.5 1991年4月 147.5 2000年2月 156.5
1990年7月 145.5 1991年5月 149.0 2000年3月 204.0
(2) オンコール体制や宿直の過重性を評価。
(3) 医師は裁量性があるがゆえに過重性が増す、と指摘。
(4) 外科医の業務の質から、心理的負荷が高いと認定。
  本件訴訟の意義  裁判所レベルでは、これまで研修医が病院を訴えた損害賠償請求訴訟の認容判決があるだけである。認容判決は医師の自殺訴訟として初めてであり、医師の行政訴訟としても初めてである。今日、医師の過重労働が問題され、過労死も後を絶たない中で、今回の判決の与える影響は大きい。
 判例掲載誌 判例タイムズ1217号243頁,判例時報1901号127頁,労働判例891号41頁 





担当著名事件判例掲載誌

 判例時報1013号 東京高裁昭和56年 刑事交通事件
  ダンプカーの左折人身事故で、被害者が死角内にいたかどうかが争点になった事件。

 判例時報1111号 東京地裁昭和58年 登記抹消事件
  戦前の事件の審理再開が突然申し立てられた事件。

 判例時報1148号 最高裁昭和59年 公選法違反刑事事件
  義理の父親あての贈答品をあずかったことで女性が選挙違反に問われた事件。

 判例時報1342号 東京地裁平成2年 じん肺事件
  三多摩の採石現場での粉塵作業でじん肺に罹患した事件。

 金融・商事判例935号 東京地裁平成4年 不動産取引
  国土法違反の契約の有効性が争われた事件。

 判例時報1707号 最高裁平成12年 過労自殺事件
  電通社員の過労自殺をめぐり企業責任を追及した事件。

担当事件を紹介した掲載本

『過労死と企業の責任』 現代教養文庫 または旬報社
  富士銀行女性行員過労死訴訟など

 『過労死社会と日本』 花伝社
  三井物産課長労災申請事件など

 『過労自殺』 岩波新書
  電通社員過労自殺事件 厚生労働省過労自殺公務災害申請事件など

 『名スカウトはなぜ死んだか』 講談社 六車護著 2002年
 イチロー選手を見出した、オリックス球団の名スカウト三輪田勝利さんの死亡の真相に迫る書。過労自殺労災事件。

 『さよならも言わないで』 双葉社 八木光恵著
 過労死110番の原点ともなった、広告代理店クリエーター八木さんの過労死事件。

 『たっちゃん起きて!九時ですよ』 脇山晴枝著
 女性週刊誌の編集部で働いていた脇山達さんの過労死事件。